【相続事例】北九州 遺産分割前に生活費が必要になったら?

目次

預貯金の払戻し制度を利用しましょう

相続手続きで故人が負っていた債務の弁済をする必要があったり、故人に扶養されていた場合に生活費が必要になったとき、他の相続人と話しがまとまっていない遺産分割前に共同相続人の共有財産である預貯金を勝手に引き出せるのでしょうか?

結果から申しますと引き出せるとなります。

ただし、いくつかの条件等ありますので詳しく解説します。

相続の不都合を解消するための制度

従来までは、故人が負っていた債務の弁済をする必要があったり、故人に扶養されていた場合に生活費が必要になったときは、遺産分割前に共同相続人の共有財産を勝手に引き出すことはできませんでした。

これでは現実問題に不都合が生じるので、相続法の改正で預貯金の払戻し制度というものが創設されました。

改正民法909条2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

民法第909条2-Wikibooks

払戻しができる金額

故人の相続財産を引き出せるということでしたが、それでは相続財産を全て引き出せるのでしょうか?

それとも金額に上限があるのでしょうか?

どのくらいの金額を引き出せるのか解説します。

上記条文にも記載がある通り、単独で払い戻しが認められる一定額についての計算式があります。

『相続開始時の債権額(預貯金額) × 3分の1 × 当該共同相続人の法定相続分』です。

また上限についても、1口座150万円までと法務省令で決まっています。

また、この仮払い制度に基づいて預貯金の一部払戻しがおこなわれた場合は、上記、条文下段(当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。)とある通り、遺産分割で精算されることになります。

要するに相続財産の前払いのようなイメージです。

また、150万円を越える金額を引き出す必要があるときは、家庭裁判所に申立てをおこなうことになります。

払戻しの事例

【事例1】

相続人がA、Bの2人(法定相続分は各2分の1)

被相続人の預貯金が2100万円(F銀行1500万円、Y銀行600万円)の場合

Aが単独で払い戻せる金額は…
・F銀行 『1500万円 × 3分の1 × 2分の1 = 250万円』
・Y銀行 『 600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円』
【引き出せる金額は上限の150万円】

F銀行は計算すると250万円ですが、上限が150万円なので、150万円。

Y銀行は計算すると100万円なので、そのまま100万円となります。

【事例2】

相続人がA、Bの2人(法定相続分は各2分の1)

被相続人の預貯金が1200万円(F銀行のa口座600万円、b口座600万円)の場合

Aが単独で払い戻せる金額は…
・F銀行a口座 『600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円』
・F銀行b口座 『600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円』
【引き出せる金額は上限の150万円】

各口座100万円ずつとなり、150万円以下なので200万円、、、と言いたいところですが、この場合同一の金融機関に複数の口座があるときは、合算額が150万円となります。

引き出す金額はa口座75万円、b口座75万でもいいですし、a口座100万円、b口座50万円でも、150万円に満つるまでの金額であれば大丈夫です。(a口座150万円、b口座0円は不可)

【事例3】

相続人がA、Bの2人(法定相続分は各2分の1)

被相続人の預貯金が被相続人の死亡時に900万円(F銀行900万円)、その後の口座振替等の支払いにより現在の口座残高が100万円の場合

『900万円 × 3分の1 × 2分の1 = 150万円』
【引き出せる金額は残高の100万円】

計算すると150万円となり、上限の150万円を引き出せるように思えますが、現在の口座残高が100万円しかないので、当たり前ですが払い戻せる額は100万円となります。

改正民法909条の2では、『相続開始時の債権額』が基準とされているので、預金残高が減っていたとしても被相続人の死亡した日の債権額で計算すれば足りると解されます。

まとめ

今回は、遺産分割前の預金の払い戻しについて解説してまいりました。

家庭裁判所の判断を要せずに単独で1つの金融機関で150万円までを上限として払い戻せるということでした。

相続開始時の債権残高と現在の債権残高が違うときは、相続開始時の債権残高を基準に計算するということがポイントです。

計算すること事態は難しくありませんので、各自で計算して銀行の窓口に払い戻しの請求をしてみましょう。

わからない場合は、銀行側も教えてくれるはずですので相談してみましょう。

それでも解決しない場合は、相続専門の行政書士事務所である弊所でもご相談を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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