はじめに|「生前贈与しておけば安心」と思っていませんか?
相続対策のご相談で、よくあるのが次のようなお話です。
- 「通帳を子どもに預けているから大丈夫」
- 「元気なうちに少しずつ渡しているから、遺言はいらない」
- 「生前贈与で整理できるなら、遺言は面倒」
確かに、生前贈与は“今のうちに渡す”という意味で分かりやすい方法です。しかし実務では、生前贈与だけでは解決できないことがたくさんあります。
この記事では、民法の条文を踏まえながら、
- 生前贈与でできること・できないこと
- 遺言でしか実現できないこと
- 「最終的に揉めない形」にするための考え方
を、初心者向けに整理します。
結論|生前贈与は「今渡す」だけ。遺言は「死後の全体設計」ができる
結論からお伝えします。
- 生前贈与は、当事者の合意により「今」無償で財産を渡す仕組み
- 遺言は、法律で決められた方式に従い「死後」に効力を発生させ、財産の分け方を“全体として”設計できる仕組み
つまり、
✅ 生前贈与=「点」で渡す
✅ 遺言=「面」で整える(全体の交通整理)
この違いが、後悔の分かれ目です。
1. 生前贈与の基本|「合意があって初めて成立」する(民法549条)
民法549条では、贈与は
- 贈与する意思表示
- 受け取る側の受諾
がそろって成立するとされています。
ここがポイント
生前贈与は、あくまで当事者間の契約です。「親の気持ち」だけでは成立しません。
また、財産を渡したつもりでも、実務では
- 名義が変わっていない
- 使途が曖昧
- 口約束だけ
といった理由で、相続時に争いになりやすいのが現実です。
2. 生前贈与で対応できないこと①|「死後の分配の全体設計」
生前贈与は、どうしても
- この財産をこの人へ
- この金額をこの人へ
という“部分最適”になりがちです。
ところが相続は、
- 預金
- 不動産
- 保険
- 借金
- 介護の事情
- 家族関係
など、全体のバランスで揉めやすいものです。
遺言でできること
民法964条により、遺言者は「全部または一部」を包括・特定で処分できます。
つまり、
- 「誰に何を渡すか」を全体で決められる
- 財産の偏りがあっても、意図を明確にできる
- 相続人が迷わない
という強みがあります。
生前贈与は“部分”、遺言は“全体”
3. 生前贈与で対応できないこと②|「相続人同士の話し合いを不要にする」
遺言がない場合、相続開始後に必要なのが遺産分割協議です。これは基本的に、相続人全員の同意が必要になります。
相続人に
- 疎遠な人がいる
- 連絡が取れない人がいる
- 判断能力に不安がある人がいる
- 書類に署名しない人がいる
こうした事情があると、手続きが止まりがちです。
遺言があると
遺言の内容に沿って進められるため、「相続人全員の合意が取れずに止まる」リスクを下げられます。
4. 生前贈与で対応できないこと③|「死後に確実に実行させる仕組み」
生前贈与は、渡した時点で終わりです。一方で、遺言は「死後の実行」が本番です。
ここで強いのが、遺言執行者です。(民法1006条以下)
遺言執行者がいれば、
- 相続財産の管理
- 遺贈の履行
- 必要な手続きの実行
など、遺言の内容を実現するための権限が与えられます。(民法1012条)
“誰が手続きを動かすか”まで決められるのが、遺言の強みです。
生前贈与にはこの「死後の実行設計」がありません。
生前贈与をしたことで、あとから後悔するケースも少なくありません。
5. 生前贈与の「誤解あるある」|書面がないと撤回され得る(民法550条)
民法550条では、書面によらない贈与は、各当事者が解除できるとされています(ただし履行済み部分は除く)。
初心者が誤解しやすいのは、
- 「口約束で贈与したつもり」
- 「将来渡すと言っていた」
の段階。
この状態は、法的には不安定で、相続が始まった後に「そんな話は知らない」となりやすいです。
生前贈与で進めるなら、書面化・名義変更・記録は必須です。
6. じゃあ「死因贈与」があるなら遺言はいらない?(民法554条)
民法554条は「死因贈与」を定め、贈与者の死亡で効力が生じる贈与について、遺贈の規定を準用するとしています。
ここだけ見ると、
「死因贈与=遺言の代わりになりそう」
と思われがちです。
ただ、実務では注意が必要
死因贈与は契約なので、
- 合意の存在
- 内容の明確さ
- 証拠
が争点になりやすく、“契約があったかどうか”で揉めることもあります。
また、遺言のように「全体設計」するというより、特定の財産についての取り決めになりがちです。
結論としては、死因贈与は「使うこともある」が、基本は遺言で整理した方が安全です。
7. 遺言でしかできないことまとめ
最後に、初心者向けに「遺言でしかできないこと」を整理します。
遺言でしかできない(または、遺言が圧倒的に強い)こと
- 死後の財産分配を全体で決める(民法964条)
- 相続人の話し合いに頼らず進める土台を作る
- 遺言執行者を指定し、死後の実行者を決める(民法1006条、1012条)
- 公正証書遺言など、方式で“争われにくさ”を作る(民法967条、969条)
まとめ|「生前贈与は点、遺言は面」迷ったら遺言で全体設計
生前贈与は、うまく使えば有効です。ただし、生前贈与だけでは、
- 死後の全体の整理
- 手続きの実行設計
- 相続人トラブルの回避
まで対応しきれないことが多いのが現実です。
迷ったときの基本は、
✅ まず遺言で全体を決める
✅ 必要があれば、生前贈与を「補助的に使う」
この順番です。
公正証書遺言で「揉めない形」を作りたい方へ|行政書士74事務所より
当事務所では、
- 生前贈与と遺言、どちらが適切かの整理
- 遺留分や家族関係に配慮した設計
- 公正証書遺言の作成サポート
まで、実務目線で伴走します。
「生前贈与で足りると思っていたが不安になった」その段階からのご相談で構いません。


